山本清次さんのタイトル

Interview

テンプル ──

他にも、人は120歳まで生きれるよう、死なない工夫を人間の身体は持っている、とご本に書いてありましたが、他にどのような長寿システムを身体は備えているのでしょうか。

山本先生 ──

お腹がすくということもそうです。お腹が空かない、ということは何かがうまくいっていません。疲労を感じる、眠くなる、こちらも大事な仕組みです。ですから、いつもニコニコ、ワクワクしている人、パワフルな人はかえって危うい。大丈夫かな?と心配になります。晴天がずっと続くと怖くなりますよね。雨になったり、曇りになったり。人間の身体も時々熱を出したり風邪を引いたり、具合が悪くなったりしてくれるとホッとします。ずっと元気、ずっと晴天の身体は何かがうまくいってないです。

元氣の定義は、病気をしていない、活動的であると思われていますが、人間は交感神経、副交感神経が切り替わってリズムを作っています。陰と陽が切り替わり、昼と夜がある。それがないのは異常です。その反対に、ずっと家に引きこもっている、ずっとグズグズだらだらしている、いつも調子が悪い、いつも気持ちがネガティブであるというのも異常です。揺らめいて動いているのが僕たちのいう「整体の体」です。「整体の体」は陰陽のアンバランスを是正する為に病気を活用して中庸を保とうとする。中庸を保つ力、死なない力であり死なない工夫です。120年生きようとしているのがヒトの力です。

テンプル ──

山本先生は、120歳まで生きていけそうですか? 残念ながら私は先生が120歳まで生きたかどうかは見届けることはできませんが(笑)。

山本先生 ──

生きていたいと思います。生理学上、120年生きるように出来てるのに、それができないのは社会のシステムや環境が120年生存に対応していないんだと思います。120年生きようと思ったら、がむしゃらに働き続けるのもおかしいですし、24時間コンビニが開いてる世界もおかしいです。人は四季折々の中にリズムを持っています。それに沿って生きれば、120年生きていけると思います。120年生きるには、社会の仕組みが変わらないとまず無理でしょうね。

テンプル ──

寝たきりのまま120年生きてもしょうがないですし。

山本先生 ──

存在に意義があるのではなく、何かを生産したり感じたり、その積み重ねに生きる意味があると思います。たぶん、人間は自分を「人間」だと思って、自然や地球の一部である「ヒト」であるということを忘れたんだと思います。だからと言って引きこもりの方々や寝たきりの方々に存在意義が全くゼロなのかと言えばそれも違うのですが。。。

テンプル ──

先生が区別されている「ヒト」と「人間」について少しお話しいただけますか?

山本先生 ──

「ヒト」という存在は、生物学上、科学的に証明され定義されています。いわゆるネコ科イヌ科と同じ「ヒト科」です。その中には「人間」という言葉はありません。「人間」は文学的な言葉です。人間の大脳の中にある空想的存在です 人間は、人が2人以上集まって社会ができる。それが「人間」というわけです、「人間」がたった1人で存在してると、それは「ヒト」であり、「ヒト」は自然同調しながら生きています。熱も出るし、くしゃみも出る、眠くもなります。でも「人間」は24時間働こうとします。物事を経済ベースで考えたり、健康に良いと言われればそればかり食べるし、肌の色が違うだけで差別もします。でも「ヒト」という世界にはそんなものは存在しません。

「ヒト」は2つの保存法則しかありません。まずは個体保存。自分を守り、育もうとする仕組み。そして種族保存ですね。自分と同じものを集めて自分と同じものを作ろうとする。この2種類しかありません。自分を愛するのは保存法則、誰かを愛そうとする心は種族保存です。この2つが発展し、様々な社会や文化ができるのが人間。人間社会は「ヒト」から離れてしまいました。本来、熱が出ても2~3日寝ていれば回復するのに、その2~3日寝るのが惜しくて薬を使って無理矢理熱を下げてしまう。体を壊してでもその症状を抑えようとする。こんなことばっかりやっているから「ヒト」の能力がどんどん混乱し、壊れていきます。

そんな生き方をしている「ヒト」の最終手段が、大きな病気になって自分の活動自体を停止させることです。これは「ヒト」から人間に向けての愛情です。人間は全然「ヒト」のことなど気にせず、ひどいことばかりしています。添加物がたくさん使われている加工食品を食べ続ける、薬という名の毒薬は使う、夜更かしはする・・・。自分の体にとって良くないことをし続けています。「ヒト」は無意識レベルで働くオートマチックシステムで人間が大脳の働きによって作り出した人間社会システムを根底で支えている基本システムです。

テンプル ──

昨日お会いした人は、1日19時間労働を半年間続けたとおっしゃっていましたよね。毎日2時間しか寝ていなかったと。結果として劇症肝炎になったそうですが、身体を壊さなかったら、その方は、その後も同じ生活を続けていたかもしれませんね。

山本先生 ──

よく自分を愛すると言いますが、そういう行為は全く自分を愛していないですよね。外の都合を優先して自分の内側を見ていないと思います。内と外を調和させる事が本当の愛ある行動であり、愛ある生活です。外側の都合、言ってみれば人間社会の都合を優先して本来、社会や人間の活動を根本から支えている「ヒト」を無視すると因果の法則が破られます。そうすると「ヒト」はその状況を止めるために、大病をするしかなくなります。何故ならそのままの生活を続けていると「ヒト」の持つ120年生きる目標を達成する前に死んでしまう可能性がある為です。

今までは人間の大脳が作り出した社会システムを中心に人類は進歩して来ましたが行き詰まりが出て来ました。その行き詰まりは個人レベルで国レベルでも現れ始めていますよね。人間と「ヒト」が調和すること。それは人間が本来の存在である「ヒト」にもう一度立ち返り宇宙に繋がる自然の叡智を含めて人間は次の時代を作り出す必要があると思います。それがこれからのテーマだと思います。

テンプル ──

「ヒト」が本来持っている自然と調和する能力は、もう退化しているかも。田舎の田園風景や山もどんどん経済活動優先で、壊されていますよね。その調和をどうやったら取り戻せるでしょう。

山本先生 ──

簡単な方法は、目を閉じることです。そのまま5分間じっとする。自分にどんな感覚や思いが沸くか。今、目を閉じるのは寝る時しかありませんからね。

テンプル ──

子どもの頃は、ボ~っとしてばかりでしたが、今はその時間は、スマホを見る時間になっていますね。5分時間があれば、5分スマホを見てしまいますね。

山本先生 ──

それならなおさら5分間目を閉じるということに意味が生まれてくると思います。積極的に目を閉じるという行為は、自分を愛する行為です。あとは、心から美味しいと感じるものを食べる、綺麗だなぁと思うものを見る。そういったものに自分を出逢わせてあげる。その工夫をされるといいと思います。それは何も高いものや珍しいものを食べるということではなく、自分が心から美味しいと感じるものを食べ、美しいものを見る。それが大事だと思います。

テンプル ──

話は変わりますが、先生は名前を覚えていなくても、背骨に触ると誰か思い出すとお聞きしました。背骨はそれほど個性があるものなんですか?

山本先生 ──

そうですね。最初どなたか覚えていなくても、背骨は触っているうちに「あ、高橋さんだ」という風に思い出します。背骨は皆さんの顔が違う以上に違います。顔は表情を作ることができますが、背骨は表情を作れませんし、嘘をつきません。お酒を飲みすぎたら胸椎の9番、食べ過ぎは腰椎2番が動きます。喧嘩して来たら胸椎6番というふうにその人個人の歴史やドラマを感じます。整体操法中の山本清次先生2

テンプル ──

これは美しい、完璧な背骨だなぁというのはあるんですか?

山本先生 ──

それは死体だけです。まっすぐで配列も正しくて。揺らぐから人間なんです。あまりにも背骨がキレイだと、この人は大丈夫かとかえって思います。 背骨をまっすぐにすることが正解だと思われていますが、背骨を完璧に真っ直ぐにすることは死ぬことを意味します。昔、近所に住んでいた背中の曲がっていつも地面を見ながら歩いていたおばあちゃんがいました。もう何年も真っ直ぐに背中を伸ばして歩いていないと言っていましたが、亡くなられた時にはピーンと伸び綺麗な姿勢で棺桶に横たわっておられました。背骨を骨格標本通りに真っ直ぐに伸ばすことは一歩棺桶に近いかも知れません。 身体は揺れ動きながら、それぞれ個性をもっていきます。標本通りにすることは、かえってその人を痛め、個性を無くすことになってしまいます。 血圧もその人にとって適正な血圧というのは、やはり体を見ないとわかりません。でも、医学では一律の値に当てはめようとしてしまいますね。ある意味完璧な背骨は陰陽左右に柔軟に揺れ動き、中庸を保とうと動き続けている背骨を指すのだと思います。