柴田久美子さんのタイトル

Interview

テンプル ──

いきなり核心からのスタートありがとうございます(笑)。もうこれでインタビューが終わってしまいそうですが、いくつか質問をさせてください(笑)。

まず、人は死ぬ時にマイナスのエネルギーを浄化して……と仰いましたが、それまでの人生で重ねてきた悪行も全て浄化されるんですか? 例えば、善行より人を殺したり、裏切ったりと、生きている間にいくつも悪事を重ねてきた人も亡くなる時にはそのマイナスエネルギーは昇華され、プラスに変換されているのでしょうか? 看取りの方に受け渡されるのは、愛のエネルギーだけなんですか? でも、悪いカルマかカルマとして、その人の魂に刻み混まれて記憶として残っていきますよね・・・?

柴田 ──

どんな人でも亡くなる時には浄化され、光となって旅立ちます。子供に『悪いことをしたらここへ行くよ』とか言って、地獄絵の描かれた絵本を見せる親がいるそうですね。でも実はそういう地獄やカルマというものはなくて、人間の行動を抑制しようとした宗教観や歴史に基づく「マイナスの念」が、私たちを支配しているだけなのではないかと思います。

テンプル ──

イメージすると、たとえその人が生前悪事を重ねてきた人であっても、亡くなるときには、その人の魂は浄化され、魂にこびりついていたホコリや汚れはどんどん削ぎ落とされ、いわゆる『真我』だけが残っていると。だからその人が死に瀕して発しているエネルギーは愛と光だけになっている、いうことですか?

柴田 ──

自然分娩で有名な吉村正先生※4も仰っていますが、人間はみな善で生まれて善で還っていくんですよ。

  • 4 吉村正……1961年より愛知県岡崎市にある吉村医院の院長を務める。以降、医療介入を極力行わない自然分娩にこだわり、約2万数千例のお産を手がける。2014年(平成25年)1月以降、吉村医院を田中寧子現院長に継承。著書に、『「幸せなお産」が日本を変える』 (講談社+α新書)など。

テンプル ──

では、死のプロセスにいる方を抱きしめたり触れたりすることで、どうしてエネルギーを受け取ることができるといえるのでしょうか?

柴田 ──

それは、その方々と1つになれるからです。私は抱いて見送るということを始めてから34人目の時にそう確信しました。その時のエピソードをお話しますね。

私に気付きを与えてくださったのは、認知症と高次元機能障害を持つ、社会的には非常にワガママな74歳のお爺ちゃんでした。倒れる前も自分の思うがままワガママに生き、倒れたあともワガママに生きた方でした。その方は、なごみの里に入居してくださっていたんですが、会いたくない人には絶対に会わないし、食べたくないものは食べないけれど1日6食も召し上がる。家族が見舞いに来ても『会いたくない』とガンとして会わなかったんですから徹底しています。

女性スタッフがお風呂で身体を流そうとすると『妻でもないのに触るんじゃない』と怒るetc.……一事が万事その調子。亡くなる前日も、夕方にいらしたかかりつけのお医者さんに『ワシはこんなところ嫌だね。リハビリしてもう一度一人暮らしに挑戦したいんだ。リハビリのいい病院を紹介しろ』と仰るくらいお元気で(笑)。

ところが夜中に容体が急変したので、私はすぐに彼のところに駆けつけて腕に抱きかかえました。そして、真夜中の2時半頃に息を引き取られてから9時頃までずっと抱いていたんですが、体を離すまでの約7時間、ずっとお爺ちゃんの体が熱いんですよ。私はこれまで様々な旅立ちの過程に立ち会い、その方々を腕に抱いて看取ってきた経験から、魂に重さがあるのを知っていました。ですが、ボリュームもあるのだということをこの時に初めて知ったのです。そのお爺ちゃんの魂はそれはもう大きな塊で、まるでキリストみたいだなと思ったことを覚えています。その後、お爺ちゃんが10歳も20歳も若返ったようにとてもハンサムになったのに驚きました。

テンプル ──

自分の気持ちのまま自由に生きてこられた自由な方だったから、魂もそんなに大きなボリュームになっていたんでしょうか。言い換えるなら、人に気を使いながら常識的な範囲で生きていくと、魂も萎縮してボリュームが小さくなってしまうってことですか?

柴田 ──

だから小さな水槽で泳ぐ金魚みたいになるのではなく、みんなで枠から飛び出してもっと自由に生きようよ!と言いたい。もちろん法に触れることをしてはいけないし、何より人生の最期に魂のエネルギーを誰かに渡すというのは大前提なんですけれど。その魂のバトンリレーが人類の進化に繋がるんですから。

テンプル ──

次世代に受け渡す愛のボリュームを増やしたいと願うなら「自由に生きよ!」なんですね。それにしても、看取りの際にはそんなに長く抱いているんですか。

柴田 ──

私や看取り士は旅立つ方が亡くなる前からそばにいて、その方の体が冷たくなるまで触れていますね。その間は魂のエネルギーを受け取ることができるからです。看取りをされるご家族にもそのようにお勧めしています。

手を握り合う写真

一般的に人は亡くなるとすぐに全身が冷たくなると思われているようですが、実は違うんです。個人差はありますが、なかには2日間もずっと温かかった方がいらっしゃるんですよ。顔や手などの表に出ているところはすぐに冷たくなりますが、背中やお腹、脇の下などは比較的温かさが残る部分。ですから体の至るところを触ってほしいんです。体がカチカチに硬直してきてもまたほどけます。

テンプル ──

硬直した体がまたほどけるとは驚きです。エネルギーを受け取れているかどうかは、体の温かさが基準になるんですか?

柴田 ──

そうです。愛する人が触れると、その温もりはまた変わるんですよ。私たちプロが触れるのとご家族が触れるのとでは熱さが違うの。そして、亡くなった方から温かさとともに何か伝わってくるものが必ずあるんです。

テンプル ──

ということは、お医者さんや救急隊員、看護婦さんは、魂のエネルギーを受け取る機会が多い職業ということになりますよね。

柴田 ──

いえ、受け手がエネルギーを受け取ろうと心を開いているかどうかが重要です。こうした真理を知っていれば可能ですが、心をブロックしていれば単なる業務に終わってしまうんじゃないでしょうか。

葬儀屋さんでも二手に分かれますよ。心のある方はどんどん輝いていかれますが、そうでない方はエネルギーを受け取れずに沈んでいくというか。

私は常々『パワースポットは亡くなる人なのよ』と言っています。瀬戸内寂聴さんは『人は旅立つとき、25mプールの529倍ものエネルギーを縁ある人に渡していく』と仰っていますが、もし本当にそうだとしたら、それを受け取らないなんてもったいないと思いませんか。旅立つ人にしたって、命のバトンを受け渡すチャンスは一度きり。そういうわけで、私たちは看取り士メンバーのなかで最高齢の方に、『亡くなる時にはみんなで行って、冷たくなるまでさするからね』とすでに約束しているんですよ(笑)。