尾竹 一男さんのタイトル

Interview

テンプル ──

どうして、そこまで重症になってしまうんでしょう。

尾竹 ──

1つは、化学物質を体に貯められる器の大きさが人それぞれ違います。普通の人は、日常的な排泄で毒素は出ていきますし、自分が処理できる化学物質の許容量以内なら過敏症にはなりません。でも新陳代謝が悪く、化学物質を排泄できなくなると、少しずつ体内に蓄積していきます。ですから、毎日少しずつ解毒し排泄することがとても重要です。

テンプル ──

これはもう、皆さん、ひまし油湿布をしましょうってことですね(笑)。

尾竹 ──

もちろん、新たに身体に取り込まない工夫も必要です。それを繰り返していけば、ある程度の生活まで戻ります。旭川に患者さんを連れて行ったときには、まず飛行機に乗れない。彼女を飛行機に乗せるために、お医者さんと看護師さんを隣に乗せました。それでも飛行機の中で倒れてしまいました。とはいえ、現地に着けば空気が良い。でもホテルには泊まれないので、一晩野宿をして旭川に行きました。 その人は横浜に戻れないので、旭川で管理人をしてもらいながら、3年間過ごしてもらったんですが、3年後、横浜に戻った時には普通の公団住宅に住めるようになりました。それくらい良くなります。完治はしないので化学物質には今でも反応は出ます。でもコントロールはできるようになる。僕もそうです。僕も一時は、化学物質過敏症で電車に乗れませんでした。

テンプル ──

尾竹先生も化学物質過敏症患者なんですね。どんな症状が出るんですか?

尾竹 ──

僕の場合は、目の焦点が合わなくなり、モノが見えなくなります。最初はメガネの度が合わなくなったのかと思い、毎月のようにメガネを買い替えていました。視界もいつも暗かったです。でも週に2回くらい定期的に岩盤浴や温泉に行って、皮脂腺から汗をかくようにしていると、だんだん視界が明るくなり、焦点が合うようになります。人によっては不整脈のように心臓疾患が出たり頭痛がしたり…。難聴や味覚障害もあります。

テンプル ──

化学物質過敏症の方は電磁波にも反応されますか?

尾竹 ──

僕は考えている過敏症タイプは大きく分けて3つあります。1つは VOC/有機揮発性化合物に反応する人、2つめは農薬の影響を受けた人、そして最後は電磁波の影響を受けた人。皆さんタイプが違います。 

電磁波過敏の方で化学物質に反応しない方は多くいます。もちろん混合タイプの人もいます。ただ化学物質過敏症が進行すると電磁波の影響を受けやすくなります。僕も一時期、携帯で話をしていると耳から膿が出ていました。今も携帯は耳に当てず、スピーカーフォンで喋っています。 

僕が化学物質過敏症になったのは、患者さんがハウスメーカーを相手に裁判を起こした時です。化学物質過敏症の発症原因が家ですから。裁判には意見書を書く必要があります。医学的な意見書は北里大学の宮田先生が、建築家の意見書は僕が書いていました。病気を発症した家に何度も行く必要があるのに、自分の防御がちゃんとしてなかった。床下に潜ってシロアリ駆除の影響があるな、とかやるんですが、1週間に3軒の家を廻った際、3軒目の家で体中に発疹が出て、体中から化学物質が溢れ出て臭くて仕方ありませんでした。目も見えなくなり、北里大学の宮田先生に電話したら「あ、やっちゃったな」と。

 僕の場合はシロアリ駆除剤が原因だとすぐに分かったので、有機リン系の農薬の解毒ができる群馬の先生のところに通って解毒をしました。今も横浜の山本忍先生に薬の処方箋を書いてもらって引き続き解毒を続けています。 

化学物質過敏症の患者さんは、症状が出て病院に行きたくても、点滴のチューブがプラスチックなのでそれに反応してしまいます…。

テンプル ──

ということは、医療行為が受けられないということですよね。病院に行くのも命がけ。

尾竹 ──

点滴のチューブを有機リンが入っていないポリプロピレンのものに変えてもらい、マスクもケナフで作って酸素チューブを入れる穴を開けて使ったりします。点滴チューブとマスクは自分専用のものを持参しないと点滴が出来ません。

テンプル ──

病院に行ってお医者さんに状況説明をするのも大変ですよね。

尾竹 ──

そもそも病院は消毒だらけで行けません。病院に行く必要がある時には、予約をとり、休憩時間など、他の患者さんがいない時に行くか、外で診療を受けます。 

裁判の時も大変でした。 裁判所に出廷したくても出廷できない。国を1回訴えました。「裁判を受ける権利が剥奪されている」「基本的人権を抹殺している、これでいいのか」と。その時は大阪地裁でしたが、 慌てて改修案を出してきました。でも、裁判所はなかなか改修ができる場所ではないんです。調停室は窓がありますが、裁判室には窓がありません。裁判官の法衣もクリーニングされています。それに、裁判所の庭の植木には防虫処理がしてあるので建物に近寄ることすらできません。結局、裁判官が患者さんの自宅に行って、青空裁判となりました。 

ちなみに、化学物質過敏症の方には観葉植物を家に入れることも禁止しています。観葉植物は農薬がふんだんに使われているので、観葉植物を家に置いた途端に発症します。

テンプル ──

そういえば、以前、野菜や果物には農薬量の基準があっても、花や観葉植物には安全基準がないと聞いたことがあります。今は、どうなんでしょう。

尾竹 ──

僕は仏壇にもお花を飾りませんし線香も焚きません。うちの先祖にもお詫びをしています。

テンプル ──

テンプルで以前、「自分の血液を顕微鏡でひたすら見てみよう」という血液観察会を開催したことがあります。線香などのお香を毎日焚いている方は、血液中に線香の灰が浮かんでいました。換気に気をつけないと仏壇の線香も肺や血液を汚す要因になります。