体からのメッセージを通訳する、とは面白いですね。私の友人も以前、動悸に悩んで山本先生のクリニックにお世話になったことがあります。その時に山本先生から、「あなたの心臓を助けるために小腸が頑張っていますので、小腸への感謝の気持ちが大切です。肝臓は怒りを感謝に、腎臓は恐怖を安心に変えるくれる器官ですが、小腸は恨み辛みを消化して慈愛の心に変える働きをしているんですよ」と言われたんだとか。
また他の患者さんで、先生が問診の際、カルテに家系図を書かれてご先祖の病気やその病気の意味を医学的に解説してくれて、後始末や朝夕の挨拶等、必要な実践ポイントを幾つかアドバイスされて、その通りに実践すると確かに血圧が下がったという話をどこかで聞いたそうで、それにも驚いていましたよ。日々、たくさんの患者さんを診ていらっしゃると、そういうまるで霊感とも思えるような能力も磨かれてくるんでしょうか。
う~ん、心身医学のパイオニアたちへの憧れから、見よう見まねで身につけたと言えるかもしれませんが、職人というのは本来そういうものだと思いますよ。例えば肺癌患者さんのオペを何百例とされてこられたある有名な教授は、二次元のレントゲン画像が三次元の立体になって見えるという話を聞きました。そこまで精通してくると、ガン細胞の状態が手に取るように分かるんだと言うんですね。何度も何度も同じ道を進んでいるうちに、いわば職人芸の域に達するのだと思います。それはどんな道を歩んでいる人でも同じなんじゃないでしょうか。
でも、普通からしてみればやはり不思議な診療ですよね。肉体以外の見えない世界のことも扱われるわけですから。
だからこそ、アントロポゾフィー医学の果たすべき役割は大きいんです。体系的な理論がしっかりとあることによって、診療内容を医者が理解するだけでなく患者さんにも第三者にも分かりやすい言葉で説明できるからです。
シュタイナー博士は、人知を超えた霊的な事柄についても、理性的な態度を伴った自然科学的な態度で探求するということを最も重要視していたそうですからね。
ええ。以前、日本ホリスティック医学協会主催のスピリチュアリティとエネルギー・ケアの講座で、“アントロポゾフィー医学とエドガー・ケイシー療法との対話”という企画を相方(前出の降矢英成先生)が企画されたことがありました。その時に私はケイシーが残した様々なリーディングを拝見して、内容について勉強しました。それで理解が深まったのは、ケイシーの伝える内容というよりも、アントロポゾフィー医学とはこういうことなんだなという自分の専門領域についてでした。必死になってケイシー、つまり相手のことを理解しようとした瞬間に、相手であるケイシーが鏡となってアントロポゾフィー医学のすべき役目や立ち位置を明確に映し出してくれたんです。
例えばケイシーがリーディング、つまり霊的な能力によって「この人の病気にはひまし油が効く」という情報を得たとするなら、アントロポゾフィー医学ではそのひまし油とは何なのか?どこにどういう治癒のメカニズムが働くのか?ということをきちんと理解し、説明するということに意義があります。アントロポゾフィー医学では、ケイシー療法に限らず様々な治療法の素晴らしさを「認識する」ためのお手伝いをする、という立ち位置にあるのではないかと。
なるほど。ホリスティックな治療を怪しい世界のものにするのではなく(笑)、きちんと体系的に説明することで患者の理解を促すことができるのが、アントロポゾフィー医学だということですね。
西洋医学の医師の中には、ホメオパシーを否定する人が多くいますし、排除しようとする動きも理解できないわけではないのですが、アントロポゾフィー医学は、この両者にも橋渡しすることが可能です。医療は、時代の進化に応じてアップデートさせていく必要はあるわけで、そのお手伝い役を担うのがアントロポゾフィー医学であり、役割の真髄かなという気がしていますね。