山本 清次さんのタイトル 

Interview

テンプル ──

ところで、そんなふうに一流の方から学ばれてきた山本先生は、人の体をどう見ていらっしゃるのでしょうか?

山本先生 ──

体はとても無機質な動きをします。例えば、怒ったら肝臓が腫れる。反対に肝臓が腫れているから怒る、という場合もあります。体はとても単純な仕組みが多重に重なって、複雑になっています。体温が下がると温めようとする。体温が高すぎると下げようとする。それはこたつのサーモスタットとあまり変わらないですよね。上がれば下げる、下がれば上げるといったような単純な動きの組み合わせ、積み重ねがその人の体です。それを有機的に捉えようとすると、お腹が痛いならどう治療しよう?という発想になります。単純な仕組みの積み重ねがいくつもあるだけなので、その仕組みの1つ1つを調整していくとお腹が痛いのが自然に治っていきます。お腹が痛いのは、精神の問題ではないか、食べ物の問題ではないか、あの問題、この問題と複雑に考えて治そうとするから病気は治らなくなるんです。病気は治るようにできているんです。治そう治そうと努力すると、どんどんこじれていってしまいます。

テンプル ──

では、自然に治っていく体になっておく秘訣は何なのでしょう?

山本先生 ──

体の基礎である単純な法則を整えることです。例えば、体の陰と陽を整える。温める、冷やす、ということですね。あるいは、酸とアルカリを整える、右と左、上と下、このバランスを取っていきます。このバランスが崩れているから症状は出ている。言い換えると、この陰陽のバランスを整えようとして体は症状を作ってるわけです。それは体の自動的な作用なんだと思えればアプローチも変わってきます。

テンプル ──

野口晴哉先生も悪いものを食べると下痢をする。これは当たり前の働きだとおっしゃってますよね。

山本先生 ──

そうですね。ちゃんと身体の機能が働いてるから起こることです。確かにここが下痢の急処という場所はあります。講座でもご説明しますが、そこを押さえて下痢を止めることは本来してはいけないことだと思います。その人の体が調整されるよう生活指導や手当を行っていけば体は勝手に治っていきます。

テンプル ──

風邪を引くと、多くの方はすぐに風邪薬を飲んだり、病院に行って熱を下げようとしますよね。すぐに薬や病院に頼ってしまうのは何故なんでしょうね。乳幼児や体力の落ちてる高齢者の場合は風邪でも医療介入が必要な場合もあると思います。でもほとんどの方は、薬を飲んだりしなくても、温かくしてゆっくり休息していれば、たとえ高熱が出たときでも2~3日もすれば回復していきます。ところが多くの方はすぐに薬を飲んだり、病院に行ってしまう。何故なんだろう?といつも不思議です。

山本先生 ──

風邪薬を飲む、解熱剤で熱を下げてしまうというのは、体の陰陽のバランスを無視して症状だけを消そうとしてるわけですよね。これは後で矛盾を産んできます。野口晴哉先生は『風邪の効用』という本を書かれましたが、風邪をひいたら正しくやり過ごす。すると後の身体にとって大きな効用を生んでいきます。これも身体が持つ叡智の1つだと思います。

テンプル ──

山本先生を私に紹介してくれた生島さんのエピソードとして、何年も夜になると足がつって困っていたのが、山本先生の施術を受けたその日から出なくなった、というのがあります。いったい、山本先生は生島さんの体に何をされたんですか?

山本先生 ──

生島さんの身体を拝見したとき、胸椎は12個ありますが、その10番目の骨が捻れていました。胸椎の10番がねじれていると、腎臓の働きや体液の働きがうまくいかないんです。肝臓や腎臓の動きが連動しないからバランスが悪くなる。なので10番の骨の捻れを取っておこうとしただけです。 整体操法中の山本清次先生

テンプル ──

そしたら、その日から足のつりが消えただけではなく、それまで「自分は三日坊主の人間だ、情けない」と思っていたのに、その三日坊主まで消えてしまった。「やらなきゃ、今日こそはやらなきゃ」と思っていて出来なかったことを、いつの間にかやっている。別に無理しているわけではなく、身体が自然に動いているらしいんですね。もちろん先生から頂いたアドバイスも真面目に実行したそうですが、となると、生島さんの三日坊主も実は身体のシステムがうまく行っていなかったことから起きていた、ということになりますよね。

山本先生 ──

僕が生島さんにお伝えしたのは、ヒトの体の知恵。それを生島さんがちゃんと生かして下さったわけです。そういう意味では生島さんの身体は一歩進んだと思います。皆さんには、身体を整えるために、自分を愛するということをもう一度見直していただきたいと思っています。自分を愛するとは、自分を甘やかすことではありません。自分の中の「ヒト」のシステムをもう一度獲得する、リカバリーさせる。そうすると、自ずと健康になっていきます。春には春の身体があり、夏には夏の身体があります。ずっとこの身体でいいわけではないです。

テンプル ──

生島さんの三日坊主がなくなったのも、元々身体が備えていたシステムを取り戻したから、とも言えるわけですね。

山本先生 ──

皆さん、やる氣が起きないとよく言われますし、その原因を心に求めてしまいます。根性がないからだとか。でも、そのほとんどは生理的なところに要因があると思っています。

テンプル ──

80代になった今も現役でご活躍のビジネスコンサルタントさんに、以前私は、たまにはダラダラ、ウダウダ過ごすことはないんですか?とお聞きしたことがあります(笑)。すると、ダラダラしたいと思う時は、体の機能の何かがうまくいってない証拠。自分の身体を整えていけば、ダラダラしたくなくなりますよ、とおっしゃってました。私は時にダラダラ過ごすことがありますが、うまく機能している身体というのは、ダラダラしていられない。何かしたくてしょうがなくなるのかもしれませんね。