尾竹 一男さんのタイトル

Interview

テンプル ──

尾竹先生が最大公約数的に、ここの地域のこの木なら比較的多くの方が使えるという木はあるんですか。

尾竹 ──

日本中の森林組合を回って分かったことがあります。いつどのように切って、どういう風に保管、乾燥させたか、製材したか。その全てを管理しないと、木は全く別のものになります。

テンプル ──

夏に切った木は水分を多く含んでいるので乾燥するまで時間がかかる。冬に切った木は乾燥して水分が少ないから使いやすい。新月に切った木は長持ちする。そんなことが言われていますよね。

尾竹 ──

冬場の11月から2月の新月の日に切った木が一番いいです。新月の時は水を吸わないからです。木も、月の影響を受けています。

テンプル ──

私の父は材木業で、山の木を切る権利を買って一山分の木を切り出し、植林をしなおすという仕事をしていました。思い返せば、新月、満月関係なく山に仕事に入っていましたし、月の満ち欠けも気にしていなかったと思います。もちろん、紙の材料としての木材もあったと思いますが。

尾竹 ──

今、日本中の林業がそうですね。でも化学物質過敏症に限って言えば、冬の時期に木を切ります。切った木は、そのまま山の斜面に斜めに倒しておいて、葉っぱが枯れた頃に山から下ろす。そう言った条件を1つ1つ付けながら、日本中を回りました。

テンプル ──

関わる方々に理解をいただかないと、なかなか難しいですよね。そこまで協力していただくのは。

尾竹 ──

だから、僕が今、ここの木なら使えると思っているのは3カ所ぐらいしかありません。

テンプル ──

頂いた資料を拝見すると、 化学物質過敏症の方の家の木を扱うときには、その木材を扱う方全員がタバコを吸わない、香料の入った洗剤を使わないなど注意が必要、とありました。

尾竹 ──

そうです。そして木の取り扱いにも注意が必要で、木を乾燥させる時には木を桟積みにし、ラッカーで印をつけます。でも、そのラッカーが使えません。

テンプル ──

印をつけるのは木の端っこですよね。しかも木は長細い。ラッカー部分だけ切り落とすだけじゃダメなんですか?

桟積みにした乾燥中の木材の写真

尾竹 ──

患者さんはその匂いも感知します。 ですから、紙に鉛筆で書いて、それを木に画鋲で貼り付けます。その紙が風で飛ぶので、その度に貼りなおす。木を積む場所も、周りに田畑のない、農薬や化学物質が飛んで来ない場所。風上に田畑があったら、もう、その木は使えません。そして、ノコギリには油をさしません。木を切った時にその油が木についてしまいますから。

テンプル ──

天然の油でも駄目なんですか。

尾竹 ──

異種なものを木に使うことになりますし、製材に使う油は高品質でもありません。石鹸でノコギリを洗って木を切ってもらうんですが、摩擦が悪くなるので何本も切れません。何度も刃を変えながら木を切ってもらいます。

テンプル ──

製材所のスタッフさんも、自宅に帰れば普通に洗剤やシャンプーを使われますよね。

尾竹 ──

最初、僕がスタッフの方に化学物質過敏症の説明をした時、スタッフの女性は、自分の身体に無添加ラップをぐるぐる巻きにして仕事をしていました。 自分の臭いを木に移さない配慮です。匂いが移らないことは重要なので、製材した後もすぐに無添加ラップで包みます。トラックに乗せた途端、使えない木になってしまいますから。

テンプル ──

トラックのニオイや、運搬途中のニオイ移りで木が使い物にならなくなってしまう…。ニオイに反応してしまうなら、家の換気扇をずっと回していればいいのではと思っていたら、換気扇が回るときの羽のプラスチック成分が微量に揮発しまうので、それがダメと聞いてびっくりしました。

尾竹 ──

可塑剤と言ってプラスチックを柔らかくして成型する成分のほとんどは有機リン系、つまり農薬に近い成分です。それが回るたびに揮発してしまう。つまり有機リン系の農薬被害を受けているのと同じことになってしまいます。

テンプル ──

そこまで敏感だと、都会には住めないですよね。どんなに木材にこだわった家を作ろうとも、 自分の身の周りにある全てのものに適応できないわけですから。

尾竹 ──

患者さんの家を造る場合には「予定地でマスクを外して深呼吸ができますか?」というところから始まります。じゃないと、いくらいい家を造ったとしても住めません。

テンプル ──

知り合いが新潟にお嫁に行きました。「空気もお水も美味しいところでいいね」って言ったら「お米どころは農薬どころよ」と言われて、あ、そうかと思ったことがあります。

尾竹 ──

農薬で手が溶けちゃいますから。例えば、無農薬の野菜や果物を宅配で送ってもらう。でも野菜はビニールやプラスチックケースに入っている、ダンボールに入っている。そのままでは食べられません。浄水器を通したお水をずっと流して、配送の影響を除去しないと無農薬野菜でもすぐに食べることができません。

テンプル ──

そういう方は、 どうやって暮らしていらっしゃるんでしょう。

尾竹 ──

お一人お一人、症状のレベルが違います。それに、ご本人の解毒ができるか、ということもあります。重症の方は転地が必要で、転地後3ヶ月くらい経つと少しずつ改善していきます。ただ転地すると、解毒作用で症状がすごく重くなる時期があります。それを乗り越えると症状は一気に軽くなっていきます。