尾竹 一男さんのタイトル

Interview

テンプル ──

話題をまた住宅に戻しますが、一般のお宅は、壁や床を金属や琺瑯にするのは難しいですよね。漆喰や土壁ならいいのでは?と思いますが、それはいかがですか?昔の家は竹を編んでそこに土壁を塗り込めていましたよね。

尾竹 ──

左官屋に普通に流通している漆喰は糊が入っているので使えません。使う時にはツノマタという天然の糊を使って自分たちで作ります。竹は使いませんが、昔の土壁によく似ています。ちなみに珪藻土がいいと一般に言われていますが、珪藻土は使えません。珪藻土は単独ではいいのですが、珪藻土を壁に使おうとすると、糊が必要になります。だいたい壁材の9割がバインダーや糊です。その糊が問題なんです。珪藻土の壁は、珪藻土の含有量は数パーセントから10パーセント程度という事実を知ることです。

テンプル ──

ちなみに安全な糊というのは存在するんですか?

尾竹 ──

患者さんが食べられるゴハンを糊にします。色々検証して、コシヒカリの系統の米は粘りがあって糊に使えます。ササニシキ系統は粘りが少ないので糊にはなりません。そのお米に塩を入れて炊き、それを糊にします。塩が入っているのでカビも生えません。

テンプル ──

ゴキブリはこないですか?

尾竹 ──

乾いてしまうとカチカチになるので、それは大丈夫です。

テンプル ──

畳は使えますか?

尾竹 ──

畳は一度も使えたことがありません。畳に使うイグサは様々な物質を吸ってしまうんですね。熊本で無農薬のイグサを作ってもらっているんですが、無農薬で作り始めて5年経っても、土の中に滞留している農薬の影響がイグサに出ます。唯一使える畳がありますが、特別な場所に収められる特別な畳で、一般の人はとても買えません。畳を使いたいときには、ポリプロピレンで作ります。 

一時期、ドイツが環境先進国ということでドイツの建材などを輸入したこともありましたが、色々試した結果、日本には合わないことが分かりました。ドイツの気候風土に適しても、四季の変化が豊かで高温多湿の日本には合いません。 

患者さんの家を作るときには、木を選ぶときでも、カンナをかけたばかりのニオイの強い時から始めて、風雨にさらしながら1週間ごとに患者さんに試してもらい、最低3か月は様子をみます。過敏症の方の家を作るので、住める家を作る必要がありますから。

テンプル ──

ちなみに、そんな手間暇のかかったお宅の総工費はいくらくらいになるんですか?

尾竹 ──

ハウスメーカーの家の10~15%ほど高くなるだけです。

テンプル ──

全然、高くないですね。というより手間暇と費やすエネルギーを考えると安すぎませんか?

尾竹 ──

たとえば、この家は全部吉野杉で作っています。扉を開けると、家の中にいても外にいるような開放的な空間になります。家具は入れてません。家具は家の外に置きます。例えば靴は家の中には収納できないので外に収納します。

吉野杉の家1 吉野杉の家2

この方は、冷蔵庫のそばに行けないので、冷蔵庫のスイッチを離れたところに作っています。冷蔵庫の中身を取るときには冷蔵庫のスイッチをOFFにして冷蔵庫に行き、中身をとったあとでまたこのスイッチのところに来てONにします。ガス器具が使えない人は、電気釜だけで調理しています。タイマーを入れておけば、鍋のそばについていなくてもいいので・・・。

冷蔵庫のスイッチ
  • 画像右手前の壁にあるのが、冷蔵庫のスイッチです。
 

新聞紙に反応して新聞が読めない人には、新聞を読むためのボックスを作りました。その方は、マジックハンドで新聞をめくっています(笑)。 

この家は仙台のある住宅地の端の崖地の斜面に建っています。ですが、東北の大震災のときも1ミリしか狂いが出ませんでした。

東北大震災に耐えた仙台の家

 何故、崖地に家を建てたかというと、化学物質過敏症の方は、ローンを組んで新築した家で過敏症が発症するのでお金がないんですね。お金がないところから家づくりが始まります。この方も以前住んでいた家が売れたものの、購入時よりは安くしか売れないので、いい土地が買えなかった。それで崖地を安く購入して家を建てたんです。震災のとき、周辺の家は全滅でしたが、この家1軒だけが残りました。もちろん崖でも大丈夫なように工夫はしていますが、震災のニュースを聴いた時にはもうダメかと思いました。

 でも、こうやって造った家に住んでいると、だんだん患者さんの症状も軽くなっていきます。希望があるのは、化学物質過敏症は、こうやって衣食住を変えることで症状が軽くなっていくことです。

テンプル ──

転地療養できなくても、こういった家に住み、衣食住を変えていくことで身体が整ってくるんですね。

尾竹 ──

この仕事に僕がはまったのは、まず患者さんが良くなっていく。それに亡くなることがない。あまりに今の建築物の質が良くないので、同じ建築家としてそれが許せないということもあります。