尾竹 一男さんのタイトル

Interview

テンプル ──

何も知らない私たちはネットで調べて「天然」「無添加」「自然派」「無垢材」といったフレーズが書かれてあると、ここはいいハウスメーカーだと思って、そこに行ってしまいますよね。

尾竹 ──

安全な家をうたった宣伝をしているハウスメーカーはありますね。でもそんなハウスメーカーの家でも、新たな化学物質過敏症患者が作られています。一般のハウスメーカーの家より過敏症になりにくい家であることは確かです。しかし、すでに過敏症を発症している人が住もうとすると、住めないと思います。

テンプル ──

尾竹先生は、一匹オオカミのような立場で家に関わっていらっしゃいますが、そうなると資材を探すだけでも大変ですよね。その資材を探すために日本中を旅したその費用はどなたが負担されたんですか?

尾竹 ──

僕です。だから化学物質過敏症の方の仕事をし始めてからどんどん貧乏になる(笑)。家も売りましたし(苦笑)。

テンプル ──

これだけのエネルギーを注いだ家がこの安さですし、設計料だって規定の料金ですよね。化学物質過敏症の方には尾竹先生をご紹介したいですが、うーん。困った。

尾竹 ──

1軒の家を建てるのに1年半から2年かかります。しかも毎週会って。その経費はとても設計料では賄えません。他で稼いで補填していますが、この仕事だけだったら、身銭を切るばかりで、とても生活はできません。それから、過敏症だとご本人が言っていても、北里大学の宮田先生にちゃんと診断を受けた方ではないと話しを聞きません。擬似過敏症の方も中には混じっていますから。過敏症だと思いたがっている精神病患者さんもいます。

テンプル ──

尾竹先生の元に仕事が行けばいくほど首を絞めてしまう(笑)。この状態、どうにかならないんですか?

尾竹 ──

家を造って過敏症を発症した人があまりにも多いんです。その方々はすでに多額のローンを背負っています。その家がたとえ売れても、過敏症発症の家ですから値段はかなり下がります。その中で新しい家を建てようとすると、二重のローンを背負うことになり、予算がありません。その少ない予算のなかでどう家を作るか。だからお金をかけない工夫が必要です。

例えばこの家は屋根の下地を天井にしています。つまり通常の天井がありません。すると天井を張る手間と費用が無くなります。断熱はちゃんと入っていますから問題はありません。きれいにカンナをかけていますから見た目は全く遜色ありません。そういうふうに安く済むよう工夫をしています。

天井のない家

テンプル ──

そんな大変な化学物質過敏症を発症しないために、私たちは、どういう生活の工夫が必要でしょう?

尾竹 ──

まず体に入れない工夫。 摂取しない工夫です。それから新陳代謝を良くして体から出すこと、汗をかくこと。化学物質は皮下脂肪に溜まりやすいので脂を燃焼して外に出すこと。脂肪の多い体は過敏症になりやすいので、患者さんは解毒しながら、どんどん痩せていって、化学物質を溜めにくい体にしていく必要があります。

テンプル ──

皮下脂肪の少ない私は発症しにくい、というのは朗報です(笑)。尾竹先生のお話をまとめると、天然のものは安全だという常識は誤っている。アロマテラピーも環境や使い方によっては身体にダメージになることを理解し、よい環境下で使うなどが必要。アロマを24時間焚き続けるというような使い方もしない。野菜や果物、観葉植物もふくめ、農薬や化学物質が使われているものは極力減らす。香料や保存剤などが使われている化学合成の日用品はできるだけ家に持ち込まない、使わない。換気に気をつける。そして、新築の家や建物への入居回数は1~2回まで。

尾竹 ──

都会でアロマテラピーを使うなら、換気が必要です。化学物質の多くは比重が重いので、床に近いところに換気扇を、天井に近いところにフィルターつきの給気口を付けて換気をする。そうすることで空気の循環が生まれます。場合によっては、プラスチック製品がいいこともあるし、合成の方がいいこともある。畳もイグサではなく、ポリプロピレンの畳がいいこともあります。

そして、どこに住むかも大事です。例えば、僕の以前のオフィスは横浜の山下公園の近くのいいロケーションにありましたが、空気汚染があったので、空気のいい横浜の山側に移転しました。環境はとても大事です。そして解毒をする。

テンプル ──

今、私たちは健康オタクでいるくらいじゃないと、とても自分や家族の健康は守れませんね。健康で過ごせているのは奇跡に思えてきます。

尾竹 ──

でも、人は慣れるんです、その状況に。僕も化学物質過敏症患者ですが、週に2回、解毒のために温泉や岩盤浴に行きます。岩盤浴に行けない時には自宅で1日に2回、お風呂に入ります。お風呂に入ったり出たりを3回くらい繰り返すと汗が出てきて、だんだん視界が明るくなります。自宅で入浴する時には化学物質除去のために、お湯に竹炭や活性炭を入れるのも効果的です。夜に入浴するなら朝から、朝に入浴するなら夜のうちに炭をお湯に入れておき、入浴する時に追い炊きして入ります。視界が明るくなるのが僕の解毒の目安です。これがもう僕にとっての日常なんです。 

僕は化学物質過敏症の知識があったので、自分の身体に何が起こったのかすぐに分かりました。でも、普通の人は分からない。病院をいくつも回っても原因が分からず、医師にも家族にも怠けているだけだとか、気のせいとか言われてしまう。特に家にいる女性が発症することが多いので、ご主人に理解されずに離婚された方もたくさんいます。離婚しても普通のアパートには住めませんから野宿生活者になってしまいます。中には普通に暮らしていけないと死を選ぶ人もいる。そういった悲劇を何度も聞いています。 

でも今は、化学物質過敏症は障がい者としての認定を受けられます。そうすると障がい者年金が出ますし保険も適用されます。化学物質過敏症だと認定できるお医者さんがほとんどいないという別の問題がありますが、以前よりは化学物質過敏症が一般に知れ渡っているので、調べれば、その情報に触れることが出来ます。

テンプル ──

尾竹先生が関われた住宅で、一般の人が泊まれる場所はないんですか?

尾竹 ──

豊田市にホテルを建てることを計画しています。

テンプル ──

それはいいですね! 完成したら泊まりに行きますので、是非教えて下さい。

今日は素晴らしいお話をありがとうございました。

インタビュー、構成:光田菜央子