山田周生氏のタイトル

Interview

テンプル ──

私はサハラ砂漠の端っこですけども、ちょっとした砂嵐は体験しました。小さな砂嵐でも目の前は真っ白になるし、目は開けてられない・・・。本格的なのはすさまじい状況になると想像しますが、そんな中でもバイクを走らせたんですか?

周生 ──

初めてサハラを縦断している時に砂嵐に遭遇しました。その時太陽が見えなくなり1m先も見ることができないほどの砂嵐で、さらに砂深いところで立ち往生。バイクから降りて押しているとタイヤが砂に半分ぐらい埋まって身動きが取れなくなりました。1時間押しても1~2メートルしか進まない。力尽きて砂の上に倒れこみました。残りはまだ何百キロもあるのに。本当に死ぬ時が来たら、自分はその死をどう感じるんだろうか。誰かに言い残す言葉や、食べたいものが浮かんでくるんだろうかと考えていました。それはそれで心のどこかでこんな体験をするのを望んでいたのかもしれません。でも、実際は何も出てきませんでした(笑)。死ぬ間際なのに、何も頭に浮かんでこないので、じゃあ、起き上がって頑張って押そうかと(笑)。少しづつ進んでいると硬いところが出てきたので、また走れるようになったんです。

テンプル ──

その時のバイクは、ごく普通の日本のバイクですよね、そのバイクでサハラ砂漠を走ると、どれぐらいで縦断できるんですか。

周生 ──

ホンダの一般的なオフロードバイクでした。普通は1ヶ月から2ヶ月かけて走るんですが、ちょうどその時、パリ・ダカール・ラリー※1があって、途中からそれについていったら、3週間くらいで着いちゃって。

テンプル ──

昨年のお話会の時に、ヘルメットを被ったまま寝て、目が覚めたらすぐにバイクにまたがって走ったというエピソードを覚えています。

周生 ──

砂漠の夜は気温がマイナスになって寒い。砂嵐もあるしサソリもいる。靴も脱がないのでサソリが靴に入ることもありません。グローブをつけ、ヘルメットをかぶったまま寝ると枕にもなります。おかげで寒くないし、着替えることなく朝陽が昇ったらすぐに走れます。何よりもとにかく僕は走りたかったんです。走っていると嬉しくてしょうがない。

砂漠でバイクのお横に横たわり休憩

テンプル ──

去年のお話会でも「嬉しくてしょうがない」「楽しくてしょうがない」という言葉をたくさん聞きました。ところで、砂漠を1ヶ月間走るための食糧やお水、ガソリンはどうされたんですか? バイクに全部、積めるものなんでしょうか?

周生 ──

水は現地で手に入れたものを少し持っていきましたが、食べ物はほとんど荷物に入れず、荷物のほとんどはガソリンでした。走っていたらお腹も空かなかったですし。

テンプル ──

ええ?! 1ヶ月もかかる旅だと知っていて、食べ物を積み込んでなかったんですか。びっくり。砂漠を水も食糧も持たず縦断しようとするなんて、常識で考えたら、ある意味自殺行為ですよね。

周生 ──

食べることより走ることが優先だったんです。寝ることも走るためには邪魔だと思っていたぐらいで。ちなみに、人もガソリンスタンドもないようなエリアは、最長区間で700km前後なので、そこを抜けると所々に小さなオアシスや村はあります。そこで何か食べものらしきものは調達できました。

テンプル ──

私は昨年からプラブヨガというユニークなヨガを始めたんですが、ヨガやプラーナを取り入れる呼吸法をやっていると、1日中動いてもお腹が空かなかったりします。周生さん、バイクに乗れる喜びと、サハラ砂漠の濃いプラーナで体は満ち足りていたのかもしれませんね。

周生 ──

青汁一杯で30年近く暮らしている鍼灸師の森美智代さんもそうですよね。 ここにはベジタリアンの外人も多く来られていますが、彼らも食べない割には体はがっちりしていますね。

テンプル ──

極限の地にいくと、体はサバイバルモードになって、普段の私たちの体ではありえない変化が起きるんでしょうね。腸内環境や体内システムが変わって必要な栄養素を体が自作するとか・・・。

周生 ──

極地に行く時は、その数週間前からこれから行く地に合わせた体調に変化していくのを毎回感じます。砂漠に1ヶ月も2ヶ月も入って、その間、ほとんど食べないし睡眠も短いですが、それでもガンガン走れました。体がシステムを変えていくんでしょうね。砂漠に行くことが多かったせいか、普段からあまり水分を取らなくてもいい体になっていきました。日本にいる時が、一番調子が悪いかもしれません(笑)。